- 慰謝料の金額基準3つのうち、最高ライン「弁護士基準」がポイント
- 自賠責基準(最低ライン)と弁護士基準では慰謝料に2~3倍の差も
- 慰謝料は3つに分かれる。①傷害慰謝料、②後遺障害慰謝料、③死亡慰謝料
- 後遺障害慰謝料は、後遺障害の階級ごとに金額が大きく変わる
交通事故の慰謝料相場表
自賠責基準 (最低額) | 弁護士基準 (最高額) | |
---|---|---|
傷害慰謝料 | 12万6000円 | 25万円 |
後遺障害慰謝料 | 32万円~1600万円 | 110万円~2800万円 |
死亡慰謝料 | 350万円~1300万円 | 2000万円~2800万円 |
慰謝料には複数の相場基準があり、一般的に最低額ラインとなる自賠責基準から最高額ラインの弁護士(裁判)基準の間で金額が決まります。任意保険の会社は、被害者に対して自賠責基準と同等か少し高い金額を提示してくることが大半です。
相場を知っておかないと不当な金額で合意してしまう結果になりかねませんので注意しましょう。
交通事故の慰謝料は精神的苦痛に対する賠償
交通事故における慰謝料とは、被害者に支払われる損害賠償金の1種を指すものです。
損害賠償金には下記のようにさまざまな種類があります。
- 治療費
- 通院費
- 休業損害
- 逸失利益
- 慰謝料 など
その中でも慰謝料は被害者の精神的苦痛に対して支払われるものと位置づけられています。
「ケガが元通りに完治するのか」「仕事や進学に影響は出ないだろうか」といった被害者の苦悩を和らげるために金銭で賠償するという意味合いがあるのです。
慰謝料の金額基準3つ
慰謝料の金額は、3つの異なる立場から基準が設定されています。
- 自賠責基準:強制加入の自賠責保険から支払われる金額の基準
- 任意保険基準:加害者側の任意保険会社が慰謝料を算出するときに使う内部基準(非公開)
- 弁護士(裁判)基準:過去の交通事故の裁判事例から導き出された基準
基本的には、自賠責基準が金額の最低ライン、弁護士(裁判)基準が最高ラインとなるため、その範囲内で慰謝料が決まると考えて良いでしょう。
1.自賠責基準
強制加入の自賠責保険から支払われる金額の基準で、慰謝料としては最低額です。
加害者の加入している保険会社との交渉で自賠責基準の支払額を上回る慰謝料が発生した場合は、保険会社からその差額分が支払われます。
2.任意保険基準
加害者側の任意保険会社が慰謝料を算出するときに使う内部基準です。明確には公表されていませんが、弁護士(裁判)基準よりも低く、自賠責基準よりもやや高めに設定されるのが一般的です。
3.弁護士(裁判)基準
過去の交通事故の裁判事例から導き出された基準で、慰謝料としては最高額です。慰謝料の交渉が裁判にまで持ち込まれた場合には、この基準で認められる可能性が高いです。
保険会社の提示金額はほぼ最低基準
最終的な慰謝料の金額は、加害者が加入している任意保険会社との交渉で決まります。
ここで注意しておきたいのが、保険会社の提示する金額は自賠責基準と同等程度のケースが大半だということです。保険会社は営利団体ですから慰謝料をなるべく抑えようとします。
一方、最高ラインである弁護士基準の金額はずっと高く設定されています。この点を知っておかないと不当に低い金額で落ち着くことになってしまうことも…。
慰謝料の種類3つと計算方法
慰謝料は被害の状況により次の3種類に分けられます。
- 傷害慰謝料(入通院慰謝料):交通事故でケガを負ったことによる肉体的・精神的な苦痛に対して支払われる
- 後遺障害慰謝料:ケガが治療で完治できず、後遺障害が残ったことに対して支払われる
- 死亡慰謝料:被害者が死亡したことで被る精神的損害に対して、相続人に支払われる
それぞれの慰謝料の相場を基準ごとに(自賠責基準・弁護士(裁判)基準)解説します。任意保険基準は公開されていませんが、自賠責基準と同じか少し高めとなるでしょう。
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1.傷害慰謝料(入通院慰謝料)
交通事故でケガを負ったことによる肉体的・精神的な苦痛に対して払われる慰謝料です。
自賠責基準
自賠責基準では、以下の2つの計算式のうち金額の低い方を傷害慰謝料として算出します。
①通院期間×4200円
②通院期間のうち、実際に病院に通った日数×2×4200円
たとえば、通院期間が3ヶ月(90日)で通院日数が30日の場合、それぞれの計算式は以下のとおりです。
①90日×4200円=37万8000円
②30日×2×4200円=25万2000円
このケースでは、②の25万2000円の方が安いため、自賠責基準による慰謝料は25万2000円となります。この金額が最低ラインとなり、任意保険会社との交渉で慰謝料が決定します。
弁護士(裁判)基準
弁護士(裁判)基準では、通院・入院それぞれの期間で相場が決まります。
また、むち打ちで他覚症状(※)がない場合、基準額が下がるので注意が必要です。むち打ちと診断されて少しでも他覚症状がある場合は、しっかり申し出ると慰謝料を上げられる可能性が高くなります。
※他覚症状とは:他人や医師が客観的に確認できる症状のこと
▼弁護士基準(通常)(単位:万円)
▼弁護士基準(むち打ち・他覚症状なし)(単位:万円)
むち打ちのみの基準で例を挙げてみましょう。
- 3ヶ月通院し、入院しなかった場合:左端の行の上から5列目に書いてある53万円が弁護士(裁判)基準の相場
- 3ヶ月入院した後に1ヶ月通院した場合:入院の3ヶ月と通院の1ヶ月が交わる106万円が相場
2.後遺障害慰謝料
交通事故のケガが治療で完治できなかった場合、医師により「後遺障害」の認定を受けることができ、後遺障害慰謝料を受け取ることができます。
障害の内容によって等級が定められており、重度の等級であるほど慰謝料も高くなります。等級は一級から重度な順となります。
後遺障害別の等級はこちらで確認できます>>
※表の限度額は慰謝料を含めた保険金総額
自賠責基準
▼相場
・介護が必要となる後遺障害:1600万円
・その他の後遺障害:等級に応じて75万円~3000万円
▼介護が必要な場合の後遺障害慰謝料
等級 | 慰謝料 |
---|---|
1級 | 1600万円 |
2級 | 1163万円 |
1級に当たるのは、常に何かしらの介護がなければ生命維持が難しい状態で、脳や神経以外の臓器へダメージを受けたケースが大半です。
▼介護が不要な場合の後遺障害慰謝料
等級 | 慰謝料 |
---|---|
1級 | 1100万円 |
2級 | 958万円 |
3級 | 829万円 |
4級 | 712万円 |
5級 | 599万円 |
6級 | 498万円 |
7級 | 409万円 |
8級 | 324万円 |
9級 | 245万円 |
10級 | 187万円 |
11級 | 135万円 |
12級 | 93万円 |
13級 | 57万円 |
14級 | 32万円 |
弁護士(裁判)基準
こちらも等級別に金額が異なり、自賠責基準に比べて2倍から3倍の金額となります。
等級 | 慰謝料 |
---|---|
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
ちなみに、むち打ちが後遺障害として残る場合は下記の等級に該当します。
- 12級:重い後遺症があるとMRI画像などで認められる
- 14級:後遺症があると認められるが、12級より軽い。ほとんどがこちら
3.死亡慰謝料の相場
交通事故で被害者が死亡したことで被る精神的損害に対して支払われる慰謝料です。受取人は被害者の相続人(配偶者・子どもなど)となります。
自賠責基準
自賠責基準では以下の3つの合算した金額が慰謝料となります。
- 死亡者本人の慰謝料
- 請求権のある相続人(配偶者や子どもなど)の慰謝料
- 扶養する相手がいた場合、加算分の慰謝料
死亡した本人分の慰謝料は一律350万円、相続人分の慰謝料はその人数によって変わります。
本人 | 350万円 | |
---|---|---|
相続人 | 1人 | 550万円 |
2人 | 650万円 | |
3人以上 | 750万円 | |
被扶養者加算 | 200万円 |
▼最も金額が高くなるケース
相続人が3人以上で扶養者がいる場合:
350万円+750万円+200万円=1300万円
弁護士(裁判)基準
被害者の家族内での経済的なポジションによって金額が変動します。目安は以下のとおりです。
- 一家の支柱である場合:2800万円
- 母親や配偶者の場合:2500万円
- その他(独身男女、子どもなど):2000万円~2500万円
【後遺症】慰謝料請求の流れ
大まかな流れはこのようになります。
- 病院で治療し、完治の見込みがないと診断される(症状固定)→後遺症
- 治療終了となり法律上の損害が確定
- 加害者側の任意保険会社との示談交渉
後遺障害等級の認定
後遺障害等級は非常に重要で、自賠責保険のみでなく任意保険でも、この等級により支払い基準が設けられています。後遺症の重さを等級により確定するものです。
申請には2通りの方法があります。
- 被害者請求
- 事前認定
被害者請求 | 事前認定 |
---|---|
被害者が必要資料をそろえて
メリット:自賠責保険の賠償金がすぐ支払われる。透明度が高い デメリット:手間がかかる | 被害者が加害者の任意保険に
メリット:資料を集める手間がかからない デメリット:賠償金は示談がまとまるまで支払われない |
- 1級から14級までの後遺障害等級に認定されると、後遺症は後遺障害となる
- 等級をもとに慰謝料の交渉を行う
慰謝料以外にも下記の様々な損害賠償金に関わり、等級によってトータルで数千万円の差が出る可能性もあります。
- 入通院費
- 治療費
- 付添費
- 交通費
- 逸失利益
- 将来介護費 など
申請の際は、書類の不足や記述の間違いがないか慎重に確認しましょう。認定された後遺障害等級に不満がある場合は異議申立もできます。
慰謝料に影響する2つの要素
慰謝料の金額は、自賠責基準と弁護士(裁判)基準の間で決まるのが相場ですが、具体的な金額に関与するのが次の2つの要素です。
- 被害者の事情:ケガをした場所や程度、治療期間など
- 加害者の事情:事故時の状況や態度など
慰謝料は被害者の精神的苦痛に対して支払われる損害賠償です。苦痛が大きくなる要因が大きければ大きいほど慰謝料も高額になります。
被害者の事情
ケガの深刻度は慰謝料に大きく影響します。治療期間の長さやケガの度合いは、客観的に測れる精神的苦痛の証明として捉えられるからです。
またこのような場合、慰謝料が増額される可能性があります。
- ショービジネスに携わっている人が顔に跡が残るケガを負ってしまった場合
- 生殖機能や嗅覚・味覚の異常など、生活に大きな苦痛を伴うケガを負った場合
加害者の事情
加害者の過失の大きさや態度により被害者の精神的苦痛が増大すると認められるときも、慰謝料が増額される可能性が高くなります。具体的には以下のような要因が影響します。
- 飲酒運転
- 極度の速度超過
- 無免許運転
- 信号無視など
- 事故後の態度(否認、証拠隠滅、現場からの逃走、責任転嫁など)
ペットや物への慰謝料はない
交通事故によって、人体ではなくペットや物品が被害を受けた場合、慰謝料という形で保証されることはまずありません。
ペットがケガ・死亡した場合でも、損害賠償は購入にかかった費用や治療費のみで収まるケースが多いです。精神的な苦痛を受けたとして慰謝料を請求することは難しいでしょう。
また思い出の品や高級なアクセサリー、希少なグッズなど大切なものであっても、人が被害に遭った時ほど精神的な苦痛が大きくないと判断されます。
適切な慰謝料を受け取りたいならプロに依頼
加害者の保険会社から提示された慰謝料が正当な金額(弁護士基準)から程遠いものだったとしても、保険のプロに対して素人が申し立てて増額を実現するのは難しいものです。
基本的に申し立てがない限り裁判所も深くは関与しませんので、司法機関に頼るのも難しいのが現実です。
したがって、慰謝料を含めて正当な損害賠償金を受け取りたいなら、交通事故に詳しい弁護士に相談するのが確実です。選び方さえ間違えなければ、状況に合わせた適切な対処を迅速に行ってくれるでしょう。
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